風の電話

2020.1.24

本作品はUDCast方式による音声ガイドに対応しています。本作品はUDCast方式による日本語字幕に対応しています。

もう一度電話したい

モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行(特別出演)、三浦友和
第70回ベルリン国際映画祭国際審査員特別賞受賞!
風の電話

Introduction

その電話に、電話線はつながっていない。しかし、東日本大震災以降、3万人を超える人々が、この場所を訪れている。どうしても話したい大切な人がいる。そこにいるのが当たり前だった家族に、さよならを伝えたい──。そんな悲しみを抱え生きる人々に、静かに寄り添う映画が生まれようとしている。

大槌町で東日本大震災に遭った高校生のハル。広島県にいる叔母の家に身を寄せているが、気持ちは大槌町に向いていた。故郷を目指し、ヒッチハイクを始めたハル。様々な人と出会い、別れ、共に旅をしていく。ハルの目には、どんな景色が映っていくのだろうか。

2011年に、大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格さんが自宅の庭に設置した〈風の電話〉。死別した従兄弟ともう一度話したいという思いから誕生したその電話は、「天国に繋がる電話」として人々に広まり、今も多くの人の来訪を受け入れている。

映画『風の電話』は、この電話をモチーフにした初めての映像作品である。難題と思われたこのテーマに挑戦したのは、『M/OTHER』、『不完全な二人』の諏訪敦彦監督。重要な主人公ハルを、注目の女優モトーラ世理奈が演じ、西島秀俊、西田敏行、三浦友和ら日本を代表する名優たちが、彼女の熱演を温かく包む。

現場の空気感まで切り取り、ドキュメンタリーのように俳優たちの動きを映していく、諏訪監督ならではの手法で制作された本作。共に旅をしたような、唯一無二の映画体験が見る人の人生にそっと刻まれる。

Story

17歳の高校生ハル(モトーラ世理奈)は、東日本大震災で家族を失い、広島に住む伯母、広子(渡辺真起子)の家に身を寄せている。心に深い傷を抱えながらも、常に寄り添ってくれる広子のおかげで、日常を過ごすことができたハルだったが、ある日、学校から帰ると広子が部屋で倒れていた。自分の周りの人が全ていなくなる不安に駆られたハルは、あの日以来、一度も帰っていない故郷の大槌町へ向かう。広島から岩手までの長い旅の途中、彼女の目にはどんな景色が映っていくのだろうか―。憔悴して道端に倒れていたところを助けてくれた公平(三浦友和)、今も福島に暮らし被災した時の話を聞かせてくれた今田(西田敏行)。様々な人と出会い、食事をふるまわれ、抱きしめられ、「生きろ」と励まされるハル。道中で出会った福島の元原発作業員の森尾(西島秀俊)と共に旅は続いていき…。そして、ハルは導かれるように、故郷にある<風の電話>へと歩みを進める。家族と「もう一度、話したい」その想いを胸に―。

Cast Profile

モトーラ世理奈
【ハル】モトーラ世理奈 Serena Motola

1998年10月9日生まれ、東京都出身。2015年、雑誌『装苑』でモデルデビュー。以降、数々のアパレルブランドやファッション雑誌を飾る。演技にも興味を持ち、2018年、映画『少女邂逅』で女優デビュー。2018年、NHKドラマ『透明なゆりかご』での演技で視聴者に大きな印象を残す。2019年、映画『おいしい家族』、映画&シンドラ&Hulu『ブラック校則』。2020年2月公開予定『恋恋豆花』が控えるなど、今後さらなる活躍が期待される注目の新人女優である。

西島秀俊
【森尾】西島秀俊 Hidetoshi Nishijima

1971年3月29日生まれ、東京都出身。1994年『居酒屋ゆうれい』で映画初出演。1997年、諏訪敦彦監督『2/デュオ』に出演。その後も、映画、ドラマに多数出演。主な出演映画に、2002年『Dolls』、2005年『帰郷』、2008年『休暇』、2011年『CUT』、2015年『劇場版MOZU』、2018年『散り桜』、2019年『空母いぶき』、『名探偵ピカチュウ』(日本語吹替)、『任侠学園』など多数。

西田敏行
【今田】西田敏行 Toshiyuki Nishida

1947年11月4日生まれ、福島県出身。1968年、青年座養成所に入所し、1970年に同所を卒業。青年座座員となる。1978年、ドラマ『西遊記』。1980年、『池中玄太80キロ』。1988年より始まった映画シリーズ『釣りバカ日誌』などを経て、国民的人気俳優に。主な出演作に、1993年『学校』、1996年『虹をつかむ男』、2002年『陽はまた昇る』、2009年『旭山動物園物語ペンギンが空を飛ぶ』、2011年『星守る犬』、2013年『遺体明日への十日間』、2017年『アウトレイジ 最終章』、2019年『任侠学園』などがある。

三浦友和
【公平】三浦友和 Tomokazu Miura

1952年1月28日生まれ、山梨県出身。1972年、俳優デビュー。1999年、諏訪敦彦監督作品『M/OTHER』などでの好演により、第24回報知映画賞主演男優賞、第9回日本批評家大賞男優賞を受賞。その他の主な出演作に、1974年『伊豆の踊り子』、1985年『台風クラブ』、1989年『226』、2007年『転々』、2009年『沈まぬ太陽』、2010年『アウトレイジ』、2011年『RAILWEYS 愛を伝えられない大人たちへ』、2016年『64-ロクヨン-』、『葛城事件』、2018年『羊と鋼の森』などがある。

Staff Profile

監督:諏訪敦彦

監督:諏訪敦彦 Nobuhiro Suwa

1960年生まれ、広島県出身。東京造形大学テサイン学科在籍中から映画制作を行い、1985年、監督・制作・脚本・撮影を担当した短編映画「はなされるGANG」が、第8回ぴあフィルムフェスティバルに入選。テレビトキュメンタリーの演出も手がけ、1995年の作品「ハリウッドを駆けた怪優/異端の人・上山草人」は高く評価された。1997年、映画『2/デュオ』で長編映画監督デビューを果たす。シナリオなしの即興演出という独自の演出手法は、この頃から確立。1999年、『M/OTHER』で第52回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞、第14回高崎映画祭最優秀作品賞、第54回毎日映画コンクール脚本賞を受賞。アラン・レネ監督の『二十四時間の情事』をリメイクした『HStory』、パリを舞台に日仏スタッフで制作した『不完全なふたり』、演技経験のない9歳の女の子を主人公にした『ユキとニナ』など、どれも「シナリオなし」で作られた実験的な制作方法が取り入れられている。2019年、フランスの伝説的俳優ジャン=ピエール・レオーを主演に迎えた『ライオンは今夜死ぬ』を発表した。東京藝術大学大学院映像研究科教授。

フィルモグラフィー:1984「はなされるGANG」ぴあフィルムフェスティバル入賞 / 1997『2/デュオ』(ロッテルダム国際映画祭 最優秀アジア映画賞受賞) / 1999『M/OTHER』(カンヌ国際映画祭批評家連盟賞受賞) / 2001『H story』 / 2002「a letter from hiroshima」(オムニバス『After War』の一篇、ロカルノ国際映画祭ビデオ部門グランプリ) / 2005『不完全なふたり』(ロカルノ国際映画祭審査員特別賞、国際芸術映画評論連盟賞受賞 / 2006「ヴィクトワール広場」(オムニバス『パリ、ジュテーム』の一篇) / 2009『ユキとニナ』(共同演出 イポリット・ジラルド) / 2010「黒髪」 / 2017『ライオンは今夜死ぬ』

監督コメント

広島から1300キロを超える旅の果てに故郷にたどり着いたハルは、偶然のように「風の電話」にめぐり合う。ゆっくりと電話ボックスに入り、ポツリポツリと亡き家族への思いを語り始めるハル。その言葉がやがて溢れる感情に満たされてゆく様を撮影しながら、私は不思議な感覚に囚われていた。今、私が撮影しているのはフィクションではない。ドキュメンタリーでもない。嘘か、真実かと問う必要すらない何かだ。これはなんだろう? 二度と訪れることのない「かけがえのない」瞬間を撮影しているという感覚。
せりふをすべて委ねたモトーラ世理奈の素晴らしい存在感と、創造力がそう思わせたのかもしれない。あるいは、旅の途中でハルが出会った人ひとりひとりが、演じる俳優たちのファンタスティックな演技によって優しく彼女を包み込み、「かけがえのない」出会いとしてハル=モトーラの記憶や身体に刻み込まれたからかもしれない。そして、もうひとつ大切なことに思い当たる。今、現実には存在しないハルの声を聞き、彼女の存在を丸ごと包み込んでいる「風の電話」。8年間そこに立ち尽くし、訪れる人々の溢れる想い、悔やみきれない後悔、言葉にならない言葉…それらが地層のように折り重なった大地の上で、今、ハルの祈りのような声を聞きながら、「風の電話」はハルをどこかに運んでいく、話すことで閉ざされていた彼女の中に温かいものがこみ上げていく。それは映画を超えた本当の出来事のように思えた。
撮影の最終日だった。前日までのどんよりした空は嘘のように晴れ渡り、しかし神の仕業のような突風が吹き荒れ、咲き乱れる花や木々を激しく揺らし、押し流される雲によって差し込む光は劇的に風景を変化させた。風はまるでハルの声を天に運ぶように「風の電話」の丘を吹き抜けたのだった。あれは、小さな映画の奇跡だったのではないだろうか。